2025年読書記録13冊目(3月-4冊目)。
書籍紹介
基本情報

あらすじ
江戸川乱歩の作品をその発表順に収録した全集の第4巻。
収録されている作品は下記のとおり。
- 孤島の鬼
- 猟奇の果
読書記録
関連記録
メモ
本書は『孤島の鬼』と『猟奇の果』という長編2本立てとなっている。
まずは1作目の『孤島の鬼』。
第3巻に収録されていた『空中紳士』と同じく約300ページに渡る長編だが、『空中紳士』のように途中でだれることなく読み進めることができた。
終盤の洞窟内での展開がやや冗長で、一方で大団円に向かう最終盤が逆に駆け足気味に感じはしたが、物語として綺麗にまとまっていた。
本書末尾の解説では「江戸川乱歩の数ある長編のなかでも、『孤島の鬼』が最高傑作と衆目のほぼ一致するのはいうまでもない」とまで評されていることから、完成度の高さは折り紙付きである。
乱歩本人による自作解説で「前以てやや筋が出来ていた」と書かれているとおり、本作は明確な構成を持っており、場当たり的な展開で破綻することなく、完成度の高い物語となっている。
個人的には、「片輪者の群れ」といった、現代では出版できないと思われる表現が多数あり、それに衝撃を受けた作品でもある。
本作に限らず、乱歩作品には差別的表現が多く見られるが、それが本作では特に強烈であった(私はその表現の善し悪しを論ずる気はない)。
さて、それに対して後半の『猟奇の果』である。
こちらは、解説でも「客観的に見てさすがに失敗作」とまで書かれているほどであり、私も中盤以降のあまりに荒唐無稽な内容に若干呆れながら読み進めた。
本作は前後編に分かれており、前編に関しては主人公である青木の精神が追い詰められていく展開にハラハラさせられ、「同じ顔を持つ2人の男」には一体どんなトリックが仕掛けられているのか、と先が気になる面白さがあった。
問題なのは後編である。
解説によれば、1年間の連載予定だったものの、前編ですでにネタが尽きてしまって、その状態で半ば無理矢理に書かれたのが後編らしい。
おかげで、前編と後編では雰囲気が変わってしまって、話自体も無理筋すぎる強引な展開となっている。
整形術によって顔も声も別人と瓜二つにしていたなんて、あまりにも馬鹿げたオチである。
ちなみに、本書には「『猟奇の果』もうひとつの結末」というものが収録されている。
解説によると、これは戦後に日正書房から再刊されたもので、後編部分を削ってその代わりに前編部分の解決編とも言うべき2章が追加されたものである。
私は、こちらの結末の方が作品としてはずっと優れていると感じた。
執筆当時の事情を考慮すれば致し方ないとは言え、話を無理に引き伸ばしてもいいことがないということがよくわかる作品だった。
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