2025年読書記録2冊目(1月-2冊目)。
書籍紹介
基本情報
あらすじ
夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。
https://www.shinchosha.co.jp/book/135551/
読書記録
関連記録
メモ
乱歩の短編集を図書館で借りた際に、一緒に借りた一冊。
きっかけは、本作の著者である道尾秀介氏が構成・執筆を担当された犯罪捜査ゲームである『DETECTIVE X CASE FILE #1 御仏の殺人』が面白かったこと。
ミステリ作家として名前は知っていたものの、その作品をちゃんと読んだ記憶があまりなかったため、この機会に読んでみたいと思ったのだ。
この作品を選んだのは、ネットで調べたところ、代表作のひとつとして挙がっていたためである。
結構古い作品(2005年出版)のためか、館内の書架には置かれておらず、図書館のデータベースを検索して書庫から引っ張り出してもらった。
いい意味でも悪い意味でも、とにかく「気持ち悪い」という一言に尽きる作品だった。
その気持ち悪さ故にページをめくる手が止まらなかったし、その気持ち悪さ故に再読の意欲は(少なくともすぐには)湧かなかった。
気持ち悪いと言っても、別に残酷な描写が多々あるわけではない(ないわけではないが、直接的なものは少ない)。
ただ、体にぬめりとまとわりついてくる言いようのない薄気味の悪さがあるのだ。
その気持ち悪さの主な要因には、「あるものに姿を変えたS君」、そして、主人公のミチオを取り巻く大人たちの言動がある。
そして、最終的に「正しい世界」が見えたとき、それまで比較的まともに見えていたものまでもがその気持ち悪さの一部だったことに気付く。それがまたこの上なく気持ち悪いのだ。
万人にオススメできる作品でないとは思うが、私は比較的好きな部類の作品だった。
こういう奇怪な作品にはどうも惹き込まれてしまうのだ。
ネタバレあり感想
これ以降の感想には、ネタバレが多分に含まれているため、もし未読の状態、かつ今後この作品を読むことを検討されている場合には、ブラウザバックしていただくことを推奨する。
小説だからこそできる叙述トリック。
人間の子供だと思わせていたミカはトカゲだし、存命の少女だと思わせていたスミダさんは花(1年前に事故死したために教室の机の上に飾られた花に話しかけていた)だし。
言ってしまえばよくあるトリックなのだが、こういうトリックは昔から大好きだ。
それまで見えていた世界が変わる瞬間の驚き、これを味わう瞬間がミステリの醍醐味だとも思う。
死んだ友達の生まれ変わりの蜘蛛とか、3歳の子供にしてはいくら何でも賢すぎるミカの話しっぷりとか、いくら何でもファンタジーというか荒唐無稽すぎないか、と思いながら読み進めていたが、すべてミチオの妄想だったと考えると合点がいった。そんな設定アリかよというツッコミはさておき。
それにしても、この作品、まともな人間がほとんど出てこない。
谷尾刑事と竹梨刑事くらいじゃないか、まともだったの。
何と言っても、まともに思えていたミチオこそがもっともイカれた人間だったのだから衝撃的だ。
母親のミチオに対する態度も、例え過去の出来事を踏まえたとしても、明らかに常軌を逸したものだったが、「演劇会に出るのが嫌だったから」などというしょうもない理由のためだけに、わざわざ登校前にS君の家に寄ってまでS君に「死んでくれない?」と伝えたミチオにはどん引きの引きだった。
しかも、そのことに対して深く悔やんでいるわけでもない。むしろ、自分の言葉で自殺に追い込んだという事実を消したいがために「S君は誰かに殺された」という物語を作ろうとしていたのだから。
そんなキングオブ気持ち悪いのミチオだけが最後のうのうと生き残って、プロローグの記述からするにそのまま大人になっているわけだ。
ここまで計算し尽くされた気持ち悪さったらないな。
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